オリゴ糖は貧血を改善するか

今回はオリゴ糖と貧血との関係を紹介します。女性に特に多いと言われている貧血ですが、オリゴ糖がその原因になるのでは?と指摘されることがあります。しかし、これは事実ではありません。オリゴ糖は貧血の原因にはならないと考えられるのです。以下では、その関係について詳しく紹介をしていきます。

貧血について[1]

はじめに、貧血について紹介しておきます。貧血とは何か、またその原因としては何があるのか。これらの点について簡単に紹介しておきます。

貧血とは

貧血というのは、血液中に存在するヘモグロビンの数が減少してしまった状態のことを言います。ヘモグロビンは酸素を運搬する際に必要となるものですので、これが減少してしまうことで、めまいが現れたり、息切れしやすいなどの運動機能に障害が現れたりすることになります。

貧血の原因は

貧血はヘモグロビンの減少が原因となって発生します。そのヘモグロビンを構成しているのは主に鉄分ですので、そのため食事から摂取する鉄分が少なくなると、貧血になりやすくなります。ヘモグロビンは分解と合成を毎日繰り返しているため、食事から摂取する鉄分が減少することで、体にとって必要なヘモグロビンを補給できなくなるのです。

食物繊維は鉄の吸収を妨げる

貧血の原因となる鉄分不足ですが、食物繊維がそれを招くこともあります。健康に良いとされている食物繊維ですが、実は鉄分の吸収を妨げてしまう事があるのです。次の表を見てください。

表:食物繊維のミネラル吸収に及ぼす影響(出典[2]

この表は、タピオカでんぷん(Tapioca)とジャガイモでんぷん(Potato)における、各種ミネラルの吸収率を検討した表です。ヒドロキシプロピル化(Hydroxypropylation)や架橋度(Cross-linkage)は高い(High)ほうがより強固な食物繊維であるといえます。この表について見てみると、タピオカでんぷんにおいて、亜鉛(Zn)や鉄(Fe)の吸収率が低下したとの結果が得られています。じゃがいもデンプンの場合ではこれが見られなかったので、食物繊維の種類によってその影響は異なりますが、食物繊維を摂取することによって鉄分の吸収率が低下することは十分に考えられそうです。

なぜこのようなことが起こるのでしょうか。その答えの1つは食物繊維が鉄分を吸着して、体外に排泄してしまうからだと言われています。食物繊維は人間の持っている消化酵素では分解されない成分で、そのため吸収されることもなくそのままの形で排泄されます。その際に、食事中の余分な脂肪分なども一緒には排泄してくれるので、食物繊維が健康に良いとも言われています。しかしそれが逆に仇となることも。食物繊維が、健康に良いとされる鉄分の吸収まで妨げてしまうのです。そのために、食物繊維を摂取しすぎると鉄欠乏性の貧血を招くこともあると考えられるのです。

そういった効果のある食物繊維ですが、今回取り上げているオリゴ糖にも同様の特性があります。オリゴ糖にしても、人間の消化酵素で分解されずに大腸にまで達するという特性があるのです。すなわち、オリゴ糖を摂取した場合でも鉄分の吸収を妨げてしまうかもしれないと考えられるのです。以下では、この点について実際の研究を紹介しながら紹介したいと思います。

オリゴ糖と鉄吸収との関係

人間を対象にした研究では鉄吸収を妨げなかった

まずは人間を対象として行われた、オリゴ糖と鉄分との吸収を検討した研究を紹介します[3]。この研究は1998年に学術誌「The American Journal of Clinical Nutrition」において報告されました。20-30歳の健康な男性12名を対象として行われています。

研究は21日間×4つの処置について行われました。4つの処置の内訳は、イヌリン、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、コントロールです。つまり、最初の3つの処置はオリゴ糖を摂取し、コントロールではオリゴ糖を摂取しませんでした。こうすることで、鉄分の吸収についての個人差を考慮できるほか、オリゴ糖の種類についてもその影響を検討できるのです。

対象者は毎日20グラムのオリゴ糖、もしくはプラセボを摂取しました。そして、鉄分の安定同位体を摂取させ、その鉄分が吸収されたか排泄されたかが測定されています。測定は研究開始後の7日間で行われました。その結果が次の表です。

表:処置別の鉄分吸収率(出典[3]

この表では、4つの処置別(イヌリン:Inulin、フラクトオリゴ糖:Fructoolihosaccharide、ガラクトオリゴ糖:Galactooligosaccharide、コントロール:Control)の鉄分の吸収率について、それぞれの対象者別(Subject)に、また対象者別の平均値が示されています。それぞれの処置における吸収率の平均値を見てみると、イヌリン:5.5、フラクトオリゴ糖:6.1、ガラクトオリゴ糖:5.3、コントロール:5.1でした。つまり、コントロールが一番低く、それ以外のほうが高いということがわかりました。

この結果の解釈としては「オリゴ糖は鉄分の吸収を阻害しない」が正しいでしょう。平均値で見てみると、たしかにコントロールよりもオリゴ糖を摂取した場合で高くなっていますが、変動幅が大きく、オリゴ糖が鉄分の吸収を促進するとは断言できません。そのため、オリゴ糖は鉄分の吸収を阻害しないとの結論が最も確からしいということになります。

では、実際に貧血の指標となる数値を見てみましょう。以下の表を見てください。

表:処置別の鉄分ステータス(出典[3]

この表では、4つの処置別に鉄分に関するステータスが示されています。ステータスとして、ヘモグロビン値(Hemoglobin)やフェリチン(Ferritin)、飽和鉄結合能(Transferrin saturation)、総鉄結合能(TIBC)について示されています。このいずれも、高いほうが状態としては良いものです。これに関して見てみても、それぞれの処置間で差は見られませんでした。つまりこのことも先ほどと同様に、オリゴ糖が鉄の吸収に影響を及ぼさなかったということを示しているのです。

動物を対象にした研究

次に動物を対象にした研究を紹介します[4]。これに関しての研究は1995年に「Journal of Nutritional Science and Vitaminology」に報告されています。この研究では、鉄欠乏の状態にしたラットに対して、鉄分とオリゴ糖を投与し、その吸収率を比較しました。その結果として、オリゴ糖を投与することで鉄分の吸収率が高まったとの結論が得られています。どうしてこのような結果が得られたのか、それについては次のようなメカニズムが考えられています。

鉄分というのは、酸によって吸収率が増加します。酸化されることで吸収されやすいヘム鉄へと変化し、その結果として吸収されやすくなるのです。そして、その酸化に用いられる酸をオリゴ糖が作り出すのです。オリゴ糖は腸内細菌によって利用され、その数を増加させます。腸内細菌によって行われる発酵は、乳酸や酪酸などの酸を生み出します。それにより、鉄分の吸収が高まったと考えられているのです。

ただし、オリゴ糖の摂取によって鉄分吸収を促進するといった根拠はあまり蓄積されていません。そのため、鉄分の吸収を促進するというよりも、鉄分吸収を阻害しないというふうに考えておくほうが良さそうです。

まとめ

では最後にまとめます。鉄分不足が原因となる貧血において、その原因をもたらしかねないのが食物繊維でした。そして、その食物繊維と似た性質を持っているオリゴ糖には鉄分の吸収を妨げる可能性が指摘されています。しかし、実際の研究では、オリゴ糖が鉄分の吸収を抑制するといった証拠はありませんでした。人間を対象にした研究ではオリゴ糖を摂取しない場合と同様の吸収率が得られ、動物を対象にした研究では吸収はむしろ増加していました。ただし、オリゴ糖の摂取によって鉄分吸収を促進するといった根拠は乏しく、鉄分吸収を阻害しないくらいに考えるのが良さそうです。貧血になることを恐れてオリゴ糖の摂取を躊躇している方の参考になればと思います。

参考文献

[1] 厚生労働省. “e-ヘルスネット-貧血の予防には、まずは普段の食生活を見直そう ” .

[2] 海老原清. "食物繊維の栄養・生理機能に関する研究." 日本栄養・食糧学会誌 61.1 (2008): 3-9.

[3] Van den Heuvel, E. G., et al. "Nondigestible oligosaccharides do not interfere with calcium and nonheme-iron absorption in young, healthy men." The American journal of clinical nutrition 67.3 (1998): 445-451.

[4] OHTSUKI, Masako, et al. "Effects of fructooligosaccharides on the absorption of iron, calcium and magnesium in iron-deficient anemic rats." Journal of nutritional science and vitaminology 41.3 (1995): 281-291.